
2025年6月
2025年6月、僕たちはマレーシアのペナン島を出発し、車でタイ南部のサムイ島を目指す旅に出ました。前回のポストではペナンを出て、マレーシアとタイの国境を越えるまでの道のり。今回はその続きです。
タイに入国した僕たちがまず向かったのは、はじめて訪れる町「ナコンシータマラート」。
さらに”タイで一番空気がきれい”といわれている「キリウォン村」を訪れ、いよいよサムイ島へ渡る日を決めた、そんな2日間の記録です。

ペナンからタイの国境まではおよそ2時間半。
その日は陸路で国境を越えたあと、直接サムイ島方面へ向かうのではなく、途中の町「ナコンシータマラート」に立ち寄ることにしました。僕たちにとっては初めて訪れる町です。
国境からナコンシータマラートまでは、およそ4時間半の道のり。
長距離運転の最中、マナーの悪い車に出くわすと、妻が突然「ヤー!イッシ!(韓国語)」と車内で声を荒げることがあります。日本語にすれば「おい、っざけんなよ!」というような語気で、助手席から鋭く一喝。
その直後には「ふふふ、よしの心の声を代わりに私が言ってあげたよ。韓国語のほうが雰囲気出るからさ」と冗談めかして笑わせてくれるので、運転中も眠くなるようなことはありません。
とはいえ、ペナンの自宅からここまでノンストップで走ってきたため、さすがに脛横の筋肉がじんわり固まり始め、国境を越えて2時間ほど走ったところで妻に運転を交代することにしました。
助手席でスヤスヤと寝顔を見せてくれることもなく、ひたすら喋りっぱなしの彼女の口周りの筋肉にも疲労がたまっていることでしょうし。それに、運転に集中すれば自然と口数も減り、車内に静寂が訪れることでしょう⋯。
そんなタイミングで休憩場所として立ち寄ったのが、タイの地元レストラン(地図)でした。

メニューは完全にタイ語のみで、店員さんも英語は通じません。
ヌードルスープを頼みたかったのですが、どうやらその日はスープの準備がなかったようで断念。結局、店員さんが手渡してくれた写真付きメニューに載っていたガパオを指さして注文することにしました。
うまく伝わるか不安でしたが、身振り手振りでなんとか意思は通じ、無事に食事にありつけました。こうした小さな達成感こそが旅の醍醐味です。

レストランを出たあとは、いよいよ妻の番です。
「私はゆっくり運転するからね」と言いながらハンドルを握ったのですが、いざ走り出すと追い越し車線をビュンビュンと飛ばしていきます。口では慎重を装いつつ、意外と戦闘的な一面があるのかもしれません。
僕たちが目指す「ナコンシータマラート」という地名はとても長く、一度で覚えられる気がしなかったので、車の中ではこの町を紹介しているタイ人のYouTube動画をいくつか視聴し、彼らの発する「ナコンシータマラート」に続いて何度も発声練習してみました。
ちなみに、発音記号で表すと、/ná.kʰɔːn sǐː tʰām.mā.râːt/となるそうです。
「やっぱりさ、新しい街への旅はいいよね。新しい地名を現地の発音で言えるようになっただけなのに、何か成長した気分になるよねー?」と、ふたりでしみじみ旅のよさを噛みしめていました。
その後、妻の積極的に目的地だけを目指す無駄のない運転のおかげで、気づけば予定よりも早く目的地に到着していました。
「私、昔、バタフライの選手だったからさ。飛び込んだら、突き進むだけなんだよね、競泳って。それが私の生き方に影響してると思う」
納得です。

ナコンシータマラートでは、駅の近くにホテルを取りました。初めての町では、駅やバスターミナルなど、交通の拠点を中心に動くことで、自然とその町の地理が頭に入ってきます。
宿泊したのは「Grand Park Hotel|地図」。ナコンシータマラート駅のすぐ近くにある大型の古いホテルで、建物には年季を感じるものの、館内は細かなところまで清掃が行き届いており、特に不便を感じることもありませんでした。
フロントには「ここで何年も働いてます」といった風格の地元のおばちゃんたちが並び、言葉は通じなくても、その応対から滲み出るベテラン感に安心感を覚えました。
ホテルの部屋に荷物を置いたあとは、ナコンシータマラートでの最初の食事へ。向かったのはホテルから5分ほど歩いた場所にある、地元料理「カノムジーン」の専門店(地図)。
最近は、Googleマップで周辺の飲食店を検索し、レビュー件数が多く評価の高い店をひとまず訪ねてみる⋯そんなスタイルがすっかり定着しつつあります。今回もそんな流れでレストランを選び、店の看板メニューを頼んだのはよかったのですが、さて、食べ方がわかりません。

「これはどうやって食べるんですか?」
スマホの翻訳機を頼りに、食べ方を店員さんに教えてもらいながら、生野菜や韓国料理のナムルのような副菜をすべて混ぜて食べるスタイルだと知りました。
野菜が主役で、麺は脇役といった印象。タイ料理はいろいろ食べてきましたが、これは初見。滋味に富んだ味わいで、毎日でも食べられそうな料理でした。

食後はスーパーでシャンプーや歯磨き粉を買い足し、妻は一足先にホテルへ戻り、僕はそのまま駅の周辺を少し散策することにしました。
駅前の広場に出ると、コンクリートの隅や木陰から、何匹もの犬が現れました。じっとこちらを見てくる犬もいれば、線路の向こうに向かって吠え続ける犬や、力なくのんびりと歩く犬もいます。動きも表情もそれぞれで、かわいらしいわんちゃんも多いのですが、旅先では狂犬病のリスクもあるため、慎重にならざるを得ません。
普段の生活では、野犬の存在を意識することなど滅多にありませんが、このように旅先で一瞬でも警戒し、足を留めるような場面に遭遇すると、自分の中の無意識の感覚に向き合い、それについて深く思考する機会にもなります。

はじめて出会ったタイの麺料理「カノムジーン」と、駅前の野犬たちの印象で終えたナコンシータマラートの初日でした。
2日目は朝から車で30〜40分ほど走り、キリウォン村というところに向かいました。タイで一番空気がきれいな村として知られている場所です。

小さな集落で、観光地というよりも、暮らしのリズムがそのまま息づく、ありのままの村。
川に架けられた吊橋の上から眺める風景、澄んだ川の流れを勢いよく泳ぐ魚たちを見ていると、「タイで一番きれいな空気」を、じっくりと味わいたくなります。
何事にも全力疾走で、たまに呼吸すら忘れているんじゃないかと思うほどの妻も、このときばかりは、ちゃんと深呼吸しているようで安心しました。

正直なところ「このくらいの自然なら、日本に帰ればいくらでもあるな」とも感じました。
緑に囲まれた小川の風景や澄んだ空気は、たしかに心地よかったのですが、妻とも「奥多摩あたりでも十分に味わえる感じだよね?」そんな話をしつつ、改めて、日本の自然の豊かさに気づかされる体験でもありました。

そんなキリウォン村ですが、川沿いに一軒、とてもお洒落で洗練された雰囲気のカフェがありました。
僕たちは休憩がてらコーヒーとクロワッサンを注文したのですが、クロワッサンが運ばれてくる前に、店員さんがマンゴスチンをサービスしてくれるという嬉しいサプライズが!久しぶりに口にしたマンゴスチンの甘みと酸味に感動し、ふたりであっという間に平らげてしまいました。
そして、その直後に本命のクロワッサンが登場。しかし、すでにマンゴスチンでお腹はそこそこ満たされていた僕たち⋯どう考えても、食べる順番を間違えました。
すっかり満腹になったあとは、村をひと巡りしながら「サムイ島から戻るときに、ここでもう一泊しようか」と話し合い、ホテルやホームステイなどの宿泊先を下見。午後にはナコンシータマラートの町へ戻りました。

ナコンシータマラートに戻ってからは、しばし妻と別行動。僕の役目は夕食の店を探すこと。イカ好きの妻が喜びそうな海鮮料理の店を探して歩くうち、地元の人々で賑わう活気のある一軒が目に留まりました。その名も「キャプテンシーフード|地図」。
夕暮れどき、妻と再び落ち合い、今夜はこちらで夕食をいただくことにしました。
この日の朝には翌日ナコンシータマラートを発ち、サムイ島へ向かうことを決めていたため、食事中も心はすでに次の目的地に向かっていましたが、この街での最後の晩餐らしく少し奮発して注文した料理は、イカやエビなどの海鮮がずらり。

ボリューム満点で、やや濃いめの味付けだったため、さすがに完食とはいきませんでしたが、十分すぎるほど満たされて店をあとにしました。
次回はいよいよ今回の旅の目的地、サムイ島へ。車とフェリーを乗り継ぎながら、ゆっくりと島を目指します。
最後まで読んでくださりありがとうございます。
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ご訪問ありがとうございます、たびなすび(プロフィール)です。現在、マレーシアのペナン島を拠点に生活しています。このブログでは日常の小さな気づきや、心に残った旅の瞬間などをお届けしています。このブログが新たな冒険や発見のきっかけになれば嬉しいです。「住みたくなるようなお気に入りの街」を探す旅に出てみませんか?