
2025年7月
部屋で流していたTOKYO FMの「SPORTLIGHT」から、今年の世界水泳がシンガポールで開催されているという話題がふと耳に飛び込んできました。
大会は8月3日まで。チケットの販売状況をみると、午前中に行われる予選セッションならまだ残っているようでした。
昔、バタフライの選手だった妻に「世界水泳、シンガポールでやってるんだけどさー、行こっか?」と聞いてみると、目を輝かせながら「行きたい!観たい!絶対行く!」と即答。
前向きに心が揺れ動く瞬間は貴重。熱い気持ちはタイミングを逃すとすぐに冷め、日常に飲み込まれてしまうので、思い立ったその流れですぐにチケットを予約しました。世界水泳のチケットを先に取ってしまったので、順序が逆になってしまいましたが、そのあと、シンガポール行きの航空券を探すことになりました。
ペナンからシンガポール、普段なら直行便でも往復1.5万円ほどで行けるはずが、直前予約の週末価格で、なんと往復6万円近く。時期によっては日本にも行けてしまう額です。
ペナン⇔シンガポールの往復にふたりで12万円を払うにはためらいが⋯そこで妥協案として、今回はマレー半島南部にある国境の街「ジョホールバル」を経由するルートで向かうことにしました。
数日後、プラン通り、まずは空路でジョホールバルへ。
ペナンからジョホールバルまで飛行機で移動し、そこから陸路でシンガポールに入国するルートに切り替えたことで、航空券と予約したホテルまでの移動を含めてもひとり往復1.4万円ほどに抑えられました。移動時間は少し伸びますが、陸路での国境越えもまた一つの旅の楽しみとして悪くない体験。

国境越えには、世界最短と呼ばれる国際列車を選びました。乗車時間わずか5分、料金は日本円で約170円ほど。 駅の待合場は人でごった返していて、陸路国境越えらしい雰囲気が漂っています。
マレーシア側での出国審査を終えると、乗客が一斉に列車に乗り込み、出発。そして、数分後⋯あっという間にシンガポールに到着です。列車を降り、入国審査へと向かうと、ちょっとした人間模様にであいました。
審査の列は、自動化レーンと、小さいお子さんなど自動化レーンを通れない方向けの有人レーンとに分かれていました。
そんな中、中学生くらいの男の子をふたり連れた家族が、警備員に制止されている様子が目に入りました。様子を窺うと、「小さいお子様連れだけで、あなたたちは自動化ゲートをご利用できます」と警備員。しかし、母親は「いいでしょ、家族なんだから」と、強引に有人レーンへと進んでいきます。国の入口であのメンタル……なかなかのものです。
自動化レーンは長蛇の列でした。比較的空いていた有人レーンの方が早いと判断したのでしょう。しかし、自動化レーンの流れは意外にもスムーズで、列の長さのわりに進みは早く、逆に有人レーンは手続きに時間がかかってしまっていました。
最終的にその家族が審査を終えたころには、自動化レーンの多くの人たちはすでに入国済み。するとさっきの家族の男の子、ちょっと呆れた顔でお母さんのほうを見ながら、「だから、向こうのほうが早いって言ったじゃん」と言わんばかりの表情。…だよね。

僕たちがシンガポールに入国できたのはお昼ごろ。まだホテルへのチェックインには少し早かったので、金融街へと向かいました。
このエリアを歩くと、ポロシャツの袖から筋肉がのぞくビジネスマンや、ヒールで颯爽と歩くスタイリッシュな女性たちの姿が目を引きます。立ち居振る舞いににじむ緊張感やプロ意識が、街の空気を引き締めている雰囲気があり、そこにいるとスイッチが入ったように、自然と自分の背筋も伸びるので、シンガポールに来たときは特に用がなくても、ちょっとだけ、このエリアに立ち寄ることにしています。

ホテルは世界水泳会場の最寄り駅、MRTの「スタジアム駅」から歩いていけるゲイラン地区に取りました。
シンガポールといえば、芸能人も移住され、ずいぶんと洗練された華やかな都市のイメージがありますが、ゲイランは少し異なる表情を見せてくれる場所です。そこは政府が公認する売春地区でもあり、メディアではあまり語られないシンガポールの裏側に触れられる場所とも言えます。
参考:世間に絶対見せたくないシンガポールの闇の実態|by Bappa Shota
夜はところどころピンクのネオンが漏れ、女性のひとり歩きや宿泊にはやや注意が必要な雰囲気もありますが、シンガポールという国の多面性を感じるには、興味深いエリアでもあります。

さて、メインイベントの世界水泳について。運良くチケットが取れたのは午前中に行われた予選(ヒート)だけでしたが、日本人選手の姿もあり、十分に楽しむことができました。
プールが間近に見える会場ではスタート台に立つ選手たちの張りつめた緊張感がひしひしと伝わってきます。
そして、何より印象に残ったのは、観客席に広がるドラマでした。
ある組ではアイルランドの国旗を振りながら夫婦が手を握り合い、スタンド全体に響き渡るような大きな口笛で息子を応援する姿。別の組では、僕たちのすぐ後ろに座っていた女性も息子さんが選手として予選に参加しているようで、登場時には祈るように手を合わせ、スタート台から飛び込んでからは、何度も何度も息子の名前を呼び、ゴールまで必死に動画を撮影していました。
残念ながら両者とも予選通過はならなかったようですが、ひたむきな親から子への愛情を間近に感じ、思わず胸が熱くなりました。アスリートだけでなく、それを支える人々の物語が詰まってるんだよな⋯そんなことを、あらためて思い知らされたひととき。
あ、そうそう、あと、今回、汪順(ワン・シュン)という中国の選手をはじめて知りました。スタート台が一番よく見える客席は、彼のファンや応援団でびっしりと埋まっていて、まるでアイドルのステージを見守るような熱気でした。
ほんの数時間の観戦でしたが、やはり来てよかったと思います。実際のところ、スポーツ観戦はテレビのほうがずっと見やすいです。リプレイや解説もあるので。それでも会場に足を運びたくなるのは、目に映る光景だけでなく、その場の温度や空気が身体に染み込み、それが人生をほんの少し豊かにしてくれているような気がするから。
そんな余韻を胸に、僕たちは会場を後にしました。退勤ラッシュの渋滞を避けるべく、MRTとバスを乗り継ぎ、途中からは徒歩で、シンガポールの出国ポイントを目指しました。

夕方にはそのままマレーシアへ入国、その後、ジョホールバルで1泊し、翌日は夕方の便でペナンへと戻りました。
この2泊3日の旅にかかった費用は、世界水泳の観戦チケット代も含めて、ひとり約32,000円。国境越えや水泳観戦を通じて、小さな驚きや発見がいくつも積み重なり、心に残る旅となりました。
最後まで読んでくださりありがとうございます。
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ご訪問ありがとうございます、たびなすび(プロフィール)です。現在、マレーシアのペナン島を拠点に生活しています。このブログでは日常の小さな気づきや、心に残った旅の瞬間などをお届けしています。このブログが新たな冒険や発見のきっかけになれば嬉しいです。「住みたくなるようなお気に入りの街」を探す旅に出てみませんか?