旅の記憶

【釜山旅行】韓国を旅するたびに思い出す“がんばり続ける社会”

2025年9月某日

「うちら、本当に頑張ったよね」

9年前、15年間暮らした韓国を離れるときに空港で、妻と顔を合わせて思わず口から出た言葉です。

ダイナミックでエネルギッシュ。そして、常に誰かと自分を比較し、比較される社会。長年住んでいて、そう感じました。

経済力、住んでいるエリア(マンションなら何棟の何階か)、車種、学歴、語学力、顔立ち、身長、毛髪量(白髪)、肌のツヤ、シワの数まで。ありとあらゆるものが比較の対象になります。

僕たち夫婦は外国人として韓国で暮らしていたので、そういった比較競争のど真ん中に巻き込まれることはありませんでしたが、それでも、社会全体に漂う空気には、やはり影響を受けていたように思います。

だから、きっと、「本当に頑張った」と、プロ生活を引退するアスリートのような清々しい気持ちで出国できたのだと思います。

そんな韓国(釜山)を、今回久しぶりに訪れました。

10日間ほど、妻と義母、母と伯母と一緒に長く暮らしていた釜山を旅しました。日中はそれぞれ自由に過ごし、夕食時に合流してみんなで食事をとるという緩やかなスタイルで。

僕も自由時間が多かったので、住んでいた頃にお世話になった人たちにも連絡をとり、10日間で再会できたのは、23人。滞在していたホテルのフロントスタッフが偶然教え子だったという奇跡的な再会もありました。

久々に会った人たちと話していて感じたのは、韓国社会に流れる価値観や風潮は今も大きくは変わっていないということです。

外見の重要性に加え、自己を高め、絶えず成長し続け、常に他者より優れていなければならない。今も昔も変わらず、基準は自分ではなく他者に置かれている、そう感じました。

日本もまた、韓国と同じように暗黙の了解の中で周囲に合わせながら暮らしていく(そうしていかなければと思う)雰囲気があると思います。

それなのに、なぜ、韓国では日本よりもずっとその傾向が強いのだろうかと考えると、それはやはり、他者から「そうじゃない」「そうすべきだ」と、直接言われることがとても多いからではないかなと思います。

「お客様はシワが多いので、こちらの商品を使われたほうがいいですね」

「白髪増えたんじゃない。奥さん、ちゃんと管理しなきゃダメじゃない」

「TOEICの点数は900点が最低ライン」

「あいつの親は医者だから最新のiPhone持てるんだよー(小学生)」

こんな会話が日常に溢れています。そんな環境に暮らしていると、つい「なぜ自分ばかりがつらいのだろう」「やっぱり自分はダメなんだ」と感じる機会も増え、不公平さや比較の感覚をより味わいやすくなるのだと思います。

街の本屋では、「自分らしく生きよう」といったテーマの本も目立ちましたが、それは、そういった社会の空気にどこか窮屈さを感じている人が多いことの裏返しなのでしょう。

韓国では「능력이 있다(能力がある)/능력이 있는 사람(能力のある人)」という言葉を耳にする機会が多いです。自分のパートナーについて話すときや、理想の人を問われたときにも、しばしば使われたりします。

僕たちが住んでいたころは、経済力や人脈、学歴、語学力が主に「能力」として語られていた気がしますが、最近ではそれらに加えて健康的な身体も同じように備えているべき要素として扱われるようになってきたのだとか。

それを象徴する場面も目にしました。もともと、24時間眠らない街などと言われる韓国の都市ですが、特に釜山のシティービーチである広安里は部活動でもやっているのかと思うぐらいのランナーの数。夜11時、12時をまわっても、夕方と変わらない街の雰囲気。

聞くところによると、ソーシャルメディアに「늘의 동을 료했다=今日の運動は完了)」の頭文字をとった오운완(オ・ウン・ワン)」と書いて、トレーニング記録を投稿している人も多くいるそうです。

刺激が強すぎます⋯。

観光で訪れ、エネルギッシュな韓国社会にしばらく身を置き、「나도 해야겠다(ナドヘヤゲッタ=おれもやらなきゃ)」と、新たな挑戦のための行動を起こすきっかけにするのはよいかもしれませんが、住むとなると別の話。

再会した上司からも「一緒に会社でもやろうよ。だから、釜山戻ってきてよ」と誘われましたが、「いや、無理です」と即答してしまいました。のんびりしたペナンでの9年を経た今、エネルギーに満ち溢れた韓国の港町で暮らすのは正直難しいと感じます。

ときどき、ペナンでお会いする日本人の方から「日本は忙しすぎて・・・ペナンはゆったりしていていいわ」という話を聞きますが、今回韓国で会った友人たちは、「日本に行くとのんびりしていて、本当に癒やされる。韓国は忙しすぎて⋯」と話していました。

僕も韓国での生活を経験してからは、日本は東京であっても、忙しい街だとは感じたことがありません。

旅の途中でも、その急ぎ足な一面を垣間見る場面がありました。

一緒に旅した母がスーパーのレジで小銭を取り出そうとしたときのこと。小銭を数えて出そうとしている母に店員は待ちきれない様子で、ついには「これでいいから」と財布から覗いていた1万ウォン札を指して支払いを促していました。

クレジットカード払いでサインが必要なときもそう。

母もそうですが、日本人のカード利用者はカードのサインに漢字の氏名を記すことが少なくありません。しかし、韓国でカード払いのサインが必要な際に漢字で悠長に名前を書いていたら、店員さんから「貸して」とペンを取られ「ー」と横棒を引かれて終わりです。

ダイナミック⋯。

そんな刺激的でせっかちな韓国で力強く生きていこうとすると、カロリー消費量も自然と増えるので、たくさん食べなければ疲れてしまいます。

ニンニクたっぷりの韓国料理を。

普段、僕たちはペナンで一日1.5食くらいの生活ですが、韓国では朝からしっかり食べてしまい、結果として10日で3キロ増。今回、滞在中に食べた主なメニューを挙げてみました。

  • 제첩국정식(ジェチョプククジョンシク/シジミ汁と鯖煮定食)
  • 장어구이(ジャンオグイ/うなぎの白焼き)
  • 육회비빔밥(ユッケビビンバ)
  • 복국(ボックック/フグ鍋)
  • 들깨칼국수(ドゥルケカルグクス/荏胡麻の手打ちうどん)
  • 수육백반(スユクペッパン/茹で豚定食)
  • 돼지갈비(テジカルビ/味付け豚の焼き肉)
  • 꼬막비빔밥(コモクビビンバ/ハイガイのビビンバ)
  • 회정식(フェジョンシク/刺身定食)
  • 낙곱새볶음(ナッコプセポックン/タコ×コプチャン×エビの甘辛炒め)
  • 김치찜(キムチチム/熟成キムチと豚肉の煮込み)
  • 갈치정식(カルチ定食/太刀魚定食)
  • 밀면(ミルミョン/小麦の冷麺)
  • 삼계탕(サムゲタン)
  • 시장칼국수(市場カルグクス/市場の手打ちうどん)
  • 해물탕(ヘムルタン/海鮮鍋)
  • 갈비탕(カルビタン)
  • 순두부찌개(スンドゥブチゲ/純豆腐チゲ)
  • 보쌈(ポッサム/茹で豚)
  • 불고기솥밥(プルコギソッパプ/プルコギ炊き込みご飯)

しっかり食べて、摂取したカロリーをダイナミックに消費する。それが韓国で生きていくコツ。

ちなみに、妻は「韓国にいるヨシが一番堂々としていて決断と行動がめちゃくちゃはやくていい。マレーシアとか日本にいるときは遠慮しすぎてる」と話していました。

確かに韓国に入国した瞬間から、自然とそうした振る舞いをしている自覚があります。同じように、日本に入国すると「ちゃんとしなきゃ」「ルールを守らなきゃ」と気持ちが切り替わります。

馴染み深い国では、国境を越えた瞬間に自分の気質や性格が変わるような感覚があるのですが、妻はどこに行っても変わりません。

僕もそうありたいと思うんですが、できないですね。

最後まで読んでくださりありがとうございます。
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ご訪問ありがとうございます、たびなすび(プロフィール)です。現在、マレーシアのペナン島を拠点に生活しています。このブログでは日常の小さな気づきや、心に残った旅の瞬間などをお届けしています。このブログが新たな冒険や発見のきっかけになれば嬉しいです。「住みたくなるようなお気に入りの街」を探す旅に出てみませんか?

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