
2012年1月, Hotel Palace, Kolkata, India
「インドには全てにおいて敗北しにいくと思って行け」と誰かが言っていました。
大袈裟だなと思っていましたが、カルカッタのサダルストリートにある安宿の扉を開けた瞬間にその言葉の意味がわかりました。壁には乱雑で気まぐれに配置されたスイッチたち。微妙に歪んだ間隔で並んでいますが、それぞれがどんな役割を担っているのか見当もつきません。
シャワーを浴びたい⋯。ただそれだけなのに、バスルームのスイッチがわからない。電球が灯ったと思ったら、今度は天井のファンが勢いよく回り始めます。まるで部屋自体が意思を持ち、こちらの焦燥を愉しんでいるかのようでした。
左上から順にスイッチを押し続けてみましたが、特に室内の変化が見られないものもあります。「一体なんのスイッチだろうね」と、妻がカチカチと激しく左右にいったりきたりさせてみても、その音が部屋に響くだけ。
「バスルームのスイッチはわかったからいっか」と、謎スイッチはONのままバックパックの中身を整理していると、突然、ドアからノック音が⋯。そっとドアを開けてみると、ほうきとちりとりを持った男が立っています。どうやら、答えが見つかっていなかった謎スイッチは清掃係を呼び出すためのものだったみたいです。
なるほど⋯。
カルカッタに到着して24時間経たずして、既にコールド負けをした気分です。まだ何もしていないのに。誰かが言った「インドには全てにおいて敗北しにいくと思って行け」に「負けることに夢中になれ」を付け足しておこう、そう思いました。
旅日記から切り取った過去旅のひとコマ