
2025年2月22日
「たった今、テルの呼吸が止まった」
毎日連絡をとりあっている家族のLINEグループに母からメッセージが届いたのはちょうど2週間前の2月8日の夜のこと。いつもは他愛もないやりとりばかりのグループなのに、このメッセージは一文字一文字が胸に突き刺さりました。
「テル」というのは、僕の祖母のこと。
認知症が進み、お腹が空けば「何か食べるものちょうだい」と言ったり、気に入らないことがあれば「むすっ」と顔をしかめたり、生まれたばかりの子どものようではありましたが、今年に入ってからもビデオ通話では元気そうにしていました。画面に僕が映ると、にやりと笑って「いい男がいる」「私のタイプ」と言ってくれたりしていたので。
それに、おしゃれへのこだわりは昔から変わらず、化粧とネイルをし、指輪、ブレスレットとお気に入りの帽子を身に着け、車椅子の上で一日中鏡を見ながら過ごしていました。
3分に1回は鏡をのぞき込むほど念入りにメイクを直し、唇が真っ赤になるまで口紅を塗りなおしては「もっと」とつぶやくその姿には、「いつでも最高の自分でありたい」「いついい男が目の前に現れても大丈夫」そんな思いがあふれていたような気がします。
もっとも、祖母が乙女っぽさを見せるのは、何も最近になってからではありません。昔からどこか少女のようにまっすぐで、可愛らしい面がありました。
僕がまだ小学校低学年だったころ、祖父母が一緒にうちに来るはずなのに、なぜか祖母だけが先に着いてしまったことがあります。落ち着かない様子で「どうしたのかしら」と玄関を何度も見やり、やっとのことで祖父が姿を現すと「全然来ないから心配したわよ!」と声を上げながら思いきり飛びついていました。
日本人夫婦が人前でそんな「ハグ」をするところを見たことがなかったので、子どもながらに目のやり場に困ってしまったのを今でもよく覚えています。
もう一つ忘れられない祖母の“乙女ぶり”は25年前に亡くなった祖父のお通夜でのこと。
「いつもみんなに優しかったから、今日も女の人ばっかり来てるじゃない」と、涙を流し悲しみながらも、孫の僕たちの前ではばかることなく嫉妬する姿を見せていました。
そんな祖母が、99歳を目前にして、こちらの世界に静かに別れを告げ、70代の少し若い祖父の待つ場所へと旅立っていきました。きっと「急にいなくなったから、心配したわよ」と言って、今ごろ祖父に抱きついているんだろうと思います。
真冬の日本にて、祖母の新たな旅立ちへの見送りを終えて。