マレーシア暮らし

森の人。日本語を話す青年。小さな島で交差した出会いの午後。

2025年4月某日

湖に浮かぶ小さな島にいる森の人たちに会ってきました。オランウータンです。

マレー語でOrang(人)、Hutan(森)、つまり「森の人」。

ただの動物とも人間とも違う、あいまいな存在。

数日前に、ペナンから車で1時間半ほどのところにあるタイピン(太平)という町のナイトサファリへの小旅行計画を知人に話していたときのこと。

「タイピンに行くなら、途中にオランウータンの保護島があるよ」

そう教えてくれたのは、国際結婚をされ、マレーシアに長く暮らしている日本の方。

「ナイトサファリだけでは物足りないかもなぁ」と感じていたところに、思いがけず心惹かれる話が舞い込んできました。

調べていくうちに興味も深まり、「それなら」と道中に立ち寄ってみることにしました。

訪れたのは、ブキット・メラという静かな湖に浮かぶ「Bukit Merah Orang Utan Island Foundation(地図)」。

湖の真ん中にぽつんと浮かぶ保護島には、違法飼育の被害に遭った個体、母親を失った孤児など、さまざまな背景を持つオランウータンたちが専門的なケアを受けながら暮らしています。

当日の朝、ペナン島から車を走らせ約1時間半。あっという間に湖畔に到着しました。平日だったので駐車場もガラガラです。

チケットを購入し、湖を眺めながらしばらく待っていると、午前11時15分。オランウータン島へ向かうボートの出発時刻がやってきました。

係員からライフジャケットをするように言われたので、待合スペースの手すりに掛けられたオレンジ色のジャケットを手に取ろうとすると、隣にいた青年がすっと手渡してくれました。

アラブ系の顔立ちで、隣には年配の男女。おそらくご家族で旅行中なのでしょう。無言のまま、でも笑顔で会釈をしてくれ、オランウータンに会う前から気持ちが和らぎました。

青年の家族に続いて乗り込んだボートは湖面を滑るように、ゆっくりと静かに保護島へと向かいます。

保護島に上陸してから最初の10分ほどは、オランウータンたちの姿を見ながら、施設内の通路をゆっくり歩いていましたが、ガイドが空を見上げ、ふと立ち止まりました。

「嵐が来ます。船着き場に戻りましょう」

雨雲と風、そしてオランウータンたちの草を頭にのせる仕草。それらから、すべてを察知したかのようでした。さすがです。ぽつぽつと雨粒が落ち始め、それはやがて本降りに。僕たちは屋根のある船着き場に戻り、雨宿りをしていました。

すると、

「日本の方ですか?」

背後からそう声をかけられて振り返ると、さきほどライフジャケットを渡してくれた青年が立っていました。

あまりにも流暢な日本語だったので、こちらからもいろいろと質問してみると、彼はエジプトからの留学生で、マレーシアの大学で機械工学を学んでいるとのこと。

「子どものころからアニメ、特にナルトが大好きで、日本語は独学で勉強してるんです」と、少し照れくさそうに話してくれました。

青年からは

「エジプトに行ったことはありますか?」

そう聞かれたので、少し記憶をたぐり、学生時代にヨルダンのアカバから海路でエジプトのヌエバに渡り、バスでカイロまで移動したことや、列車でルクソールを訪れたことなどを話しました。遠い記憶のはずなのに、すぐに言葉になって出てくるのは不思議です。

それはそうと、流暢に日本語を話し、さらには日本語を聞いているときの彼の頷き方や相槌の打ち方までとても自然だったので、すぐ横にいたお父さんに

「息子さん、すごいです。独学なのに、日本語完璧ですよ」

そう英語で伝えると、

「あ、君たちは日本人だったんだね?うん。彼は日本が大好きで、小さいころからひとりでずっと勉強してたみたいなんだ。中国語にも興味があるみたいなんだ」

と、お父さん。誇らしげな表情が印象的でした。

最近、エジプトの一部の学校では日本式の教育(特活=Tokkatsu)が導入されていて、掃除の時間やチーム学習といった文化が少しずつ浸透しているらしいので、今後、こうした活動をきっかけに、日本に興味を持ったり、日本語を学びたいと思うエジプトの若者が増えていったら素晴らしいなと思います。

参考:JICAによる活動報告

暫くして、すっかり雨も止んだので、エジプト人家族とともに再び園内へと戻ると、ガイドが遠くにいるオランウータンの名前を呼んでいます。

オランウータンと人間のDNAは、97〜8%が共通しているそうなので、状況判断に優れていて、僕たちのことも怖がることなく、ゆっくりと金網の奥からゆっくりと近づいてきてくれました。

棒を器用に使って、急がず、確実に、仕切り越しの木の実や虫を手元へ運んでいきます。

オランウータンの人懐っこい様子、エジプト人家族との出会い、出発前には想像もしていませんでしたが、目的地のタイピンに着く前に、すでにこの小旅行のハイライトを迎えてしまったような気がしました。

帰りのボートでは、妻と

「期待以上だったよね。」

「ナイトサファリ、ここを超えてくる気がしない…」

「寄り道にしては、よすぎたよね」

そんな話をしながら、岸へと戻っていきました。

ボートを降り、エジプト人青年の出身地であるアレキサンドリアで近い将来再会しようと約束をし、彼らとは別れ、僕たちも次の街、タイピンへと向かいました。

オランウータンの保護島、しばらくは忘れられない場所になりそうです。

最後まで読んでくださりありがとうございます。
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ご訪問ありがとうございます、たびなすび(プロフィール)です。現在、マレーシアのペナン島を拠点に生活しています。このブログでは日常の小さな気づきや、心に残った旅の瞬間などをお届けしています。このブログが新たな冒険や発見のきっかけになれば嬉しいです。「住みたくなるようなお気に入りの街」を探す旅に出てみませんか?

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